緋の稜線感想

タイミングがうまいことあって全巻一気読みしました。昔読んだことはあるのですが、改めて読んで沸々とこみあげてきたので書き起こし。
時代背景が戦前から昭和の終わりまでということもあると思うのですが、根底に流れる価値観が違い、違和感を感じることが多々ありました。でも現代に通じることもあり、むしろ今にいたっても解決していない問題に対して先見の明を感じることも多く、非常に読み応えのある作品でした。

一番価値観の違いを感じたのはやはり女性の有り方です。登場人物に基本的にいいところの奥さんが多いのですが、地位のある男性は基本外にお妾さんがいるし、正妻はそれを受け入れなければならないという風潮で絶対離婚はしないのですね。

そんな中で主人公の夫である昇悟は女性を一人の人間としてみることができる稀有な男性として描かれているのですが、神格化されすぎ!
また、個人的に描き方が最も許せなかったのが昇悟とお妾さんと妾腹の子供について。ここにものすごく納得できなかったので不満を掘り下げて書いていきます。
これが許せないのは主人公に肩入れしちゃってるからなんだろうなとは思うんですが・・・

主人公である瞳子は結婚してそのあとすぐに夫が出征して、空襲でお舅さんが亡くなって男手の全くない中、戦後の混乱期に義実家の姑と義妹を養うために大黒柱として大回転。もうこの時点で出戻っていいんじゃないかな?と思いました。二十歳くらいで子供もいないし。
やっと昇悟が戻ってきて幸せに暮らせるかと思いきや結核末期の幼馴染に強姦されて妊娠。ものすごく悩んで、たとえ離婚してでも自分の子供だからと出産することを決意。この時、昇悟はしばらく気持ちの整理がつかず瞳子を実家におきっぱなしにするものの、何やかやあって自分の子供として受け入れることにします。
その後、昇悟と瞳子が二人三脚?でバリバリ働き始めるとお互いに仕事が忙しく、会えるタイミングも少なくなります。そこで夫婦の心の隙間をつくように、いろんな偶然が重なりあって昇悟は芸者を囲うことになります。お妾さんは16歳で昇悟は30半ばくらいかな?嫁にきた時の瞳子に似ているとのことですが、この時点でただの男でなんならロリコンなので神格化をやめいという感じです。でもこのお妾さんがすごく健気で一途な素晴らしい女性のように描かれることから昇悟の行いは悪いようには描かれず、誰が悪いわけでもない、仕様のないことだったのだという論調。お妾さんはめでたく妊娠するのですが、この時結核が発覚。長くは生きられないということに。そうこうしている内にとうとう瞳子もお妾さんの存在を知ることになります。
瞳子がお妾さんに会った結果、死にゆく人の最後の願いやらなんやらに絆されて妾腹の子供を自分の実子として引き取り、ついでに昇悟も許すことにするんですね。ちなみに昇悟は悪かったと思っているものの特に謝罪もせず、お妾さんにまだ心が残っている感じ。でも離婚のりの字もでてきません。

問題はここ!

昇悟はお妾さんに子供を生むことを許すんですね。でも離婚する気は全くないんですよ。瞳子は夫以外の子供を生むときに離婚もやむなしと決意しています。ということは昇悟は女性は一人の人間云々いいつつもそれを貫くことができなかったダブルスタンダード男に成り下がったわけです。覚悟もないのに浮気すんな!ばれた時点でせめて土下座して謝れよ!瞳子!離婚っていいなよ!
ただ、ここでずるいのはお妾さんが亡くなるということ。もしお妾さんが元気なままだったら昇悟は子供を生むことを許したのか?また、許したとして瞳子がお妾さんの子供は引き取らない、私は子供を2人つれて出ていくといったらどうしたんですかね?正直、妾は妾としての器量しかもっていないから妾なんです。昇悟の根幹である大店の正妻としてふるまえるとは到底思えませんでした。離婚を切り出されてなりふり構わず妾を捨てて瞳子をとるくらいの描写があればまだ納得感があったのですが。
あと、周囲の人も瞳子に厳しすぎ。瞳子が忙しすぎて昇悟を構ってやれず、そこに配慮できていなかったから妾をつくられたんだとか言われてて昇悟は子供か!と。どっちも忙しかったんですよ?会えなかったのは瞳子も同じ。なら瞳子が浮気してもいいの?それは許さないんでしょ?
昇悟が昭和の古い男で妾をもつことが男の甲斐性と考えるようなタイプであれば問題ありませんが、瞳子と一緒に人生を歩んでいきたいとかいろいろ言って瞳子を雁字搦めにしばりつけてきた男がやっていいことではないです。これでもまだ言い足りないくらい神格化が続くことが許せない。

瞳子は全ての子供を自分の子供として育てますが、やはり人の口に戸は立てられぬもの。二人の子供は自分の生い立ちをしることに。
更にその直後くらいに昇悟は飛行機事故で行方不明に。瞳子は3人の子供(一人だけ正嫡)を抱えて一人で事業と家庭の切り盛りを行うことになります。
昇悟役立たずすぎない?肝心な時はいっつも舞台にはあがらないんだよねお前。それが話を面白くさせるということはわかっているけど!

んで、最終巻近くになってお妾さんに年々似てくる妾腹の子に対して瞳子は複雑な気持ちを抱くようになり、正面から目を合わせることができなくなってしまいます。それはやはりお妾さんに対してのわだかまりを当時解消できていなかったつけがまわってきたんですね。
昇悟がほぼ死亡しているということで、先に死んだお妾さんと二人で向こうの世界にいるのかと思うと許せない気持ちになる。
じゃ、なぜわだかまりをなくせていなかったかというと、それは瞳子がお妾さんと勝負をしている気だったからだと言います。望まれぬ子供を身ごもった時、一時はおろそうとした自分と命がけで何がなんでも生もうとしたお妾さんを比べて女として母として負けた気になった。それを妾腹の子供を育てることで勝とうと独り相撲していたから苦しかった、という結論に達して妾腹の子供と真にわかりあって?終了・・・したのですがここもはぁ!?です。

いやいや状況違うでしょ。瞳子の場合は強姦だったけどお妾さんは好きな人のところに無理やりおしかけたよね?全く欲しくなかった子供と切望するほど欲しかった子供であって前提条件全く違うから!お妾さんが強姦されて昇悟以外の子供を身ごもってたらたぶんおろしたと思うよ?大丈夫、余裕で勝ってるよ。
あと妾腹の子供は結構命の危機があるんだけど、そのたびにお妾さんがあらわれて守ってくれているアピール。なんならそっちに感謝。むしろ本当の母娘だからこその甘えなんだろうけど、瞳子への扱い雑すぎない?瞳子は実子を放り出して夜泣きに付き合ったりしてるのにお母さんを呼んでも呼んでも来てくれない夢を見続けるって、悲劇のヒロインいつまでやってるの?むしろお妾さんは生んでくれた人だけど自分の母親は一人だけくらい言ってほしかったですわ。あとお妾さんも神格化されすぎ。強姦した幼馴染は全然でてこないよ?同じくらい子供を望んでいたと思うんだけど。

ということでやっぱりなんだかんだ女性に厳しい作品だったな!と思いました。面白かったけど!これだけ強い怒りを架空の物語に抱くことができるほどパワーのある作品だったということですごいと思います!